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「夜にあまり灯りを灯すと怒られて俺のおこずかいが減っちゃうから、暗くても許してね?」
薄暗い室内を心許なくも一本の蝋燭が照らす。室内には神妙なる水晶が中央に安置されており、壁はおそらくは居住に繋がるドアを除いてあたり一面が数字が振られた鍵付きの棚で覆われていた。そして少年。声の主である事は明白であろうその少年は、まるで呪いで笑顔に顔面に貼りついている様に、精巧な笑顔をこちらに向けていた。
「こないだマリー婆さんのとっておきの菓子を全部食って数ヶ月おこずかい無しじゃなかったか?」
「あれはそうでもなかったよ。あの人は怒る時は熱も半端ないんだけど案外簡単に冷めてくれるからね。でも2ヶ月ただ働きだったよ。お金頂戴?」
「そんなただれた関係になった覚えはねぇよ。こっちにも熱を上げやすい奴がいるんだから早く進めようぜベナルド。」
「うーん、そうだね、先ず挨拶だよ。久しぶりレイ。そしてはじめましてロック。俺はベナルドだよ。」
握手を求めて右手を差し出すベナルド。ロックはそれに脇目すら振らずに暗にも直にも拒絶を示す。ロックの興味は目下、水晶に刻まれた複雑怪奇な魔法陣の全貌に注がれていた。
「ふられた?」
「俺だってまだ握手にすら至ってねぇよ。」
「そっか、じゃあまぁよろしくねロック。」
目の端で捉えたベナルドの笑顔のその無機質さに、ロックは少々感心を抱いたが、興味には至らずロックは魔法陣の分析に脳を十割傾ける。
「ところでレイ、君の好きな数字は?」
「1だな。理由は無い。直感。」
「良いね、そういうの好きだよ。」
レイの返事を聞いたベナルドは水晶が置かれた台の脇に掛けられた鍵の束をじゃらじゃらとこすり鳴らしながら持ち上げ、壁の棚の一番を解錠。中から手紙を取り出し、レイに投げ渡す。
「読んでみて。それこそが今日の君の目的で俺の仕事。」
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