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「そんなことないです!
すいません、もう一度お願いします!」
だめだめ、今、私は未央なの。優衣じゃないんだから。
と、自分に言い聞かせ、篤志に向き直る。
篤志はというと、優しい笑顔でこちらを向いていた。
が、その笑顔が本物でないことは私にはわかる。
私がケイに抱き着くところからまた撮影が開始された。
「未央・・・」
涙目で下から上目使いで見る未央に、ケイは、切なく名前を呼ぶ。
そして、ゆっくりとケイの手が伸びてくる。
あ・・・さっきちゃんとしなきゃって考えたばかりなのに。
また、未央より自分が勝って出てきてしまう。
そっ、と私の頬を支える大きく優しい手。
演技をしているけれど、それは紛れもなく大好きな篤志の手だった。
なんで・・・
なんで未央にはこんなに優しく触れるのに、私には・・・
だめだ、もう今私の中には未央はいない。
演技ではなく、本物の涙が頬を伝い、篤志の手を濡らす。
すると、微かに篤志の手がピクッと動いた。
「・・・」
一瞬、戸惑ったように思えた篤志だったけど、すぐに戻り、篤志の顔はゆっくりと近づいてきた。
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