第1章 始まりの日

4/60
585人が本棚に入れています
本棚に追加
/524ページ
会社には九年と少し勤めていた。 社内での人間関係は特に悪くはなかったと思う。 何人かの親しい友人もいたし、上司との関係も悪くはなかった。 整った顔をしていたわけでも、特別な才能があったわけでも、性格がこの上なく良かったわけでもなかったから、女の子にはそれほど人気がなかった。 だけど、それを不満に思ったことはない。 特別に出世街道を歩んでいたということもないけれど、別段これといった不満はなかった。 仕事もそれなりにはこなしていた。 会社を辞めるような理由はどこにも見当たらなかったけれど、僕は会社を辞めた。 ただ、何となく辞めた。 理由を説明しろと言われれば、僕はきっと混乱するだろう。 おそらく、どこまでも混乱するだろう。 なぜなら僕自身にだってその理由はわからないのだからだ。
/524ページ

最初のコメントを投稿しよう!