585人が本棚に入れています
本棚に追加
/524ページ
会社には九年と少し勤めていた。
社内での人間関係は特に悪くはなかったと思う。
何人かの親しい友人もいたし、上司との関係も悪くはなかった。
整った顔をしていたわけでも、特別な才能があったわけでも、性格がこの上なく良かったわけでもなかったから、女の子にはそれほど人気がなかった。
だけど、それを不満に思ったことはない。
特別に出世街道を歩んでいたということもないけれど、別段これといった不満はなかった。
仕事もそれなりにはこなしていた。
会社を辞めるような理由はどこにも見当たらなかったけれど、僕は会社を辞めた。
ただ、何となく辞めた。
理由を説明しろと言われれば、僕はきっと混乱するだろう。
おそらく、どこまでも混乱するだろう。
なぜなら僕自身にだってその理由はわからないのだからだ。
最初のコメントを投稿しよう!