第9章 再訪

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美晴は僕の方に右耳を向けて見せた。 その耳には黒くて丸い石のついたピアスがついている。 石は光沢を持った、金属のようだ。 ナナに初めて会っとき、彼女が耳につけていたピアスに似ている。 だけど、僕にはその石の名前なんてわからない。 僕はもともとそういうことに疎いのだ。 「このピアスね、彼が買ってくれたの。まだ私が高校生のころよ。私、その頃まだピアス・ホールは開けてなかったんだけど、もう嬉しくって嬉しくって、その晩さっそく安全ピンで穴を開けたの。もう、親はかんかんに怒ってね。父親に何度も叩かれたわ」 美晴は笑いながら言う。 「当然、学校でも怒られたわ。そりゃそうよね、だって高校生がピアスをして学校に行くなんて、考えられないもんね。だけど、私は嬉しくって、誰に怒られてもピアスをはずさなかったの。彼と離れても、このピアスをしている限り大丈夫だと思ってた。このピアスは彼自身なんだって思ってた。私が手放さない限り、どこにも行かないって信じてた。今はまだこのピアスをはずす自信がないわ」 美晴はそういうと、アイスコーヒーを一気に飲み干した。 僕はそれ以上、何も言えなかった。 ただ、美晴のグラスからアイスコーヒーがぐんぐんと減っていくのを見ていることしかできなかった。
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