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天さえ俺に味方していると強烈な追い風を感じた。
これだけ条件が揃って失敗するはずがあるものか。
今日ここへ客がやって来る。
整えた全ての準備はその為で、俺を落ち着かせずうろうろと部屋を回遊させている原因でもある。
済ませられる支度は全て済ませている以上到着を待つ以外にすることが無い状況が逆に焦りを呼んでいる。
手持ち無沙汰で、棚の引き出しを開け写真立てを取り出した。
去年の体育祭で撮られた写真が挟んである。
俺が着順を表す旗を手渡されているところで、障害物走で粉にまみれた顔は緩み切って我ながらみっともない。
もちろん、体育祭で一位になったから喜んでいるというわけではなかった。
写真の中で俺に微笑みかけている体育祭実行委員の女子。
その横顔は切り取られた時間の中でも見惚れてしまうほど魅力的だった。
安部(あべ)祷(いのり)。
俺と同じ学年の女子で、きょとんととぼけたような顔立ちは愛らしくそれでいて大人びた整い方もしている。
控え目な立ち居振る舞いと手入れの行き届いた腰まで伸びる長い髪が品性と育ちの良さを思わせる。
現に隣の市内にある大病院の令嬢でクリスチャンという見事な〝お嬢様〟だ。
そうした強力なステータスを持ちながら当人は引っ込み思案で非常に大人しく、表に出たがるタイプではない。
それでもそのルックスで校内では有名人になっている。
出会いは入学式の日だった。
校門に入ろうかという時、前を行くやたらと緊張している女子が目に付いた。
それが祷ちゃんだったわけだが、その時俺はまだ彼女を意識していなかった。
ぎくしゃくした足取りの横をすり抜けようとすると唐突に彼女は転んだ。
あとで聞くまでわからなかったけれど、アスファルトを割って生えていた雑草をよけようとして転んだらしい。
名も無き花でもなんでもない。
何度も踏みつけられて既にぼろぼろになったただの草をだ。
俺は落した荷物を拾いながら誰にともなく謝る照れ笑いに見とれた。
登校する生徒たちの中でただ一人停滞するどん臭い女子が意外な美人だったことへの驚きが強かったかもしれない。
そうやって後ろを振り返ったまま歩き、俺は校門に激突した。
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