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すぐそばの事故に気付いて伏せられていた長い睫が持ち上がり目を丸くした彼女と目が合った時には、なぜだかやり遂げた気持ちで誇らしくもなったものだ。
その後、どうにかしたいと思いはしても俺にとって別次元に高嶺の花であると同時に少しずれた天然ぶりの彼女と接点を持つことは難しく、一年の間はまごまごとして無為に過ごした。
だが今年の春に進級して同じクラスになってからは奮闘し、とうとう夏休みの二日目である今日、家に招くところまで漕ぎ付けたわけだ。
あの安部祷が悲惨な食生活を送る一人暮らしの同級生に手料理を振る舞いにやって来る。
両親がいない身の上で、意図したわけではないと言えど同情を狙ったような形なので卑劣と後ろ指を指されるかもしれないが、この際汚名を被ることも厭わない。
同級生。
今はまだそれだけでしかない関係は今日でおしまいだ。
夕方にはもう違っている。
この機会に仲を進展させ、あわよくば、あわよくば。
俺にとっては大事な写真だがクラスメイトの関係で飾っていると当人には気味悪がられるかもしれないので引き出しに入れておくのが無難だろう。
引き出しの中、伏せた写真の横の小さな紙袋を見る。
凝視する。
その中に大切に大切に収められているのは避妊具だ。
あわよくばな願いの正体。
それだけが狙いではない。
しかし、しかし万が一そうなった場合に備えた言わば紳士性の具現化とも言える。
高校生と言えばもう子供とも言えないのだから、第二次成長は迎えているのだから、女が男の部屋を尋ねるということはそういう場合もあり得ると彼女もわかっているはずだから、女子の読む雑誌は最近過激なものが多いらしいので耳年間に育っているはずだから、覚悟はできているはずだから、それが自然な流れのはずだ。
間違いだとしても何か起きればそれは暴走する青い性のせいで、思春期が悪いんだ。
俺のせいなんかじゃあない。
何故だろう、これだけ方向性がはっきりしているのに目的を見失っている気がする。
そろそろ約束の時間だ。
早目に着くかもしれないことも考えておくべきだろう。
小屋の入口を開いて外を見る。
アルミの扉は熱を持っていたが今はそれさえも幸せに感じる。
見渡せる範囲のどこにも人影は無かった。
まだのようだ。
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