あわよくば下半身

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 たとえ今日明確な一歩を踏み出せなくとも明るい未来への着実な土台になるはずだ。 家に来て手料理を振舞ってもらうのだから、そうなれば今後ただの同級生でいられるはずがない。 しかしあわよくば、後日と言わず今日中にあわよくば。  自分がにやけているのを自覚しつつ避妊具を隠した引き出しを凝視し、やがて気を取り直して工具箱から持ち出した鋸の歯を黒板に当てる。 壁から引き剥がして丸々獲得してきたのでかなり大きくウェルカムボードにするには切り取らなければ使えない。 果たして間に合うだろうか。 いいや、どうせゆったりとは待てないのだから急ぐだけだ。  突然、視界が暗くなって鋸を引こうとした手が止まった。  この辺りは航空機の航路に入っているわけでもなく、ヘリコプターでは小屋を覆うほどの影は作れない。 そもそもそれらしい騒音は聞こえなかった。 かといって雲のせいにするにはあまりに影は濃過ぎた。 なにしろ月明かりの夜程度にしか目が利かない。  一体何事かと振り返り窓の外を見ようとして、思わず鋸を床へ落とした。 部屋の中心に人影が浮かんでいる。  人影としか形容のしようのない何かだった。 黒い塊が宙で踊るようにゆるゆるとうねっている。
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