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ケルカの森の中央を流れる小さな川があり、長の家はその川をまたぐように生えた大木の上にある。大木をぐるりとらせん状に絡みつく太いツタは、まるで階段の様に、大木の上まで伸びている。大人1人がゆうに歩いていけるくらい太いツタなので、パウアとティムの2人は走って頂上の長の元へと急いだ。
すっかり日もくれて、辺りは真っ暗だ。
長のいる木の頂上の小屋からは、ほのかに緑色の光がもれている。
「長、ただいま戻りました。ティムとパウアです。
途中で森の異変に出会いました。入ってよろしいでしょうか」
"入りなさい"
中から精霊語で優しい声が響く。爽やかな風が吹いたようだ。
木の扉を開け、2人は部屋の中に入る。
中は円柱形の小屋になっていて、ただ中央にぽつんとある椅子に、深く腰掛けて座っているのがこの森の長、ティムレンだ。
齢1000を越えており、ほとんど精霊に近い存在だ。食事は必要とせず、マナで生きているという。
碧色の光を帯びており、老人のようにも、青年のようにも見える。
"おかえり、2人とも。異変とはなにかね?"
2人は、森の中で見た事をありのままに話した。目を閉じて静かに聞いていた長は、聞き終えた後、しばらく沈黙していた。
"それが本当なら…"
「……」
2人は黙って長の言葉を待った。
"ティム、主だった者をここに集めておくれ。大切な話があると、私が言っていると。"
「はい、長」
"話がすんだら、また2人を呼ぶから、部屋で食事を済ませて待っていておくれ。パウアも、いいね?"
「はい、わかりました。」
2人は一礼して、部屋を出て行った。
残された長は、深くため息をつき、呟いた。
"かつてなかった事だが…巫女は2人、ということか?
黒き月の穴がここまでも…
先に旅立ったトュリートに、何があったというのだ…"
深く、深く憂いを帯びたその姿が、ユニコーンのトューリーのように、はかなく揺れた。
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