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「ふぅ…」
森の中央にぽっかり空いた野原に、小さな泉がある。周りは草原になっていて、木々を抜ける風が心地よい。暑くもなく、良い天気で、本当なら大あくびして昼寝でもしたいところだけれど、パウアの胸は晴れない。
「はーあ、ぁ…」
足を冷たい泉に浸して、仰向けに寝転んで空を眺める。
雲ひとつない青空。
眩しくて片手をかざしながら、ポツリとつぶやく。
「トュリートは今頃、どの辺かな…」
そっと目を閉じる。
まだあの日が信じられなくて、夢みたいで。
実際何度も夢にみたけど、やっぱりまだ、信じたくない。
トュリートが旅立ってしまったなんて。
「本当に、帰ってくる?」
泣きそうな顔で、マントの裾をつかんだパウアの頭をそっとなでて、マントを目深に被ったトュリートは笑った。
「あぁ、きっといつかね。長い旅になるけど、必ず帰ってくるよ。」
「…私も一緒に行きたい…」
しゃくりあげながら地面を見つめるパウアに、困ったように返事をする。
「君はまだ幼い。いつか大人になったら、きっと一緒に旅をしようね。」
「…ほんと…?」
「あぁ、きっと。だからしっかり勉強して、立派なアルフになってね。楽しみにしてるよ」
まだ納得できないけど、そっとトュリートのマントの裾を離して、見上げた。
逆光でよくは見えないけど、優しいひとみで見つめてくれている。もう、ワガママ言ってちゃ、いけない…よね…?
「いってらっしゃい、トュリート…無事で帰って…きてね…」
「うん、約束。パウア、いい子でね」
若草色のマントが森に紛れて見えなくなるまで、その後ろ姿を見つめていた。
「きっと、きっとだよ、トュリート…」
「あれから、もう3ヶ月…」
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