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比較的待たなかった方だと感じた。
処置室から、事も無げな顔をして弟が出てきた。
この子は…本当にいつも事も無げなのだ。
そしてよく怪我や病気をしていたっけ。
4メートルある崖からの転落…。
あの時は、下目蓋を切って『後1ミリずれていたら、失明ですよ』と、医師に言わしめ、周囲の肝を冷やした。
椅子から、滑落して舌を噛み切り、筋一枚で繋がっていたものを、泣き叫びながら四肢を押さえ付けられ、縫合されて即入院。
病室に連れて行かれて、次の瞬間には、頑張ったご褒美に…と
大好物のイカの刺身に醤油を付けて食べており、これまた周囲の感嘆の声を聞いた。
ある時は、私の目の前で、自転車ごと自動車に跳ねられ、あろうことか運転していた中年のオッサンに『どこ見て走ってやがる!』と怒鳴り付けられ、青くなるやら頭に血が上るやらして、弟に駆け寄ろうとしながらオッサンに言い返そうと構える私を尻目に
むっくりと起き上がり、自転車に跨るや否や、疾風の様に走り去ってみたり…。
泣きもするが、なんというか…次の瞬間にはケロリとしていた。
そして怒りを露にする事が無かった。
無口で、いつも眉間に皺を寄せて、困ったような考え事をしている様な顔をしていた。
それから、時折見せる笑顔が極上なのだった。
力尽きて、呆けて居る私を余所に処置室の奥に向かって
『ありがとうございました』と、頭を下げ
ひょこひょこと此方へ向かってきた弟。
聞けば、竹を踏み付けた傷口から結構な大きさの小石が出てきたらしい。
痛いはずなのに、母と妹、それから弟と私で歩いて家路についた記憶が、微かに残る。
帰り道の事は、あまり憶えていない。
…そんな弟も、今では2児の父親で、会社では部長さんと呼ばれている。
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