第一章 屋上の怠け者

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 そう思いながら柊一は寝返りをうつ。  ――家から逃げるためだけにここに来た俺が……。  柊一の家は柊一と兄の双子、そして父親の父子家庭である。  母親は柊一と兄を生む前に病気を患い床にふせっており、お腹の中にいる二人も危うかったと言う。  そして、無事に二人を出産するも病状が悪化し一年後、亡くなってしまった。  母親が亡くなり、父親は男手一人で双子を育てることを決意した。 それから時がたって柊一と兄が中学二年生となったある時。  家に二人の女性が住むようになった。  一人は父親の再婚相手の女性、もう一人はその相手の娘だ。  再婚相手の女性は自分の子供のように優しく二人に接してくれたが、兄はともかく柊一の方は何故か懐くことができなかった。いや、信用することができなかったのだ。  最初は小さな違和感から始まる。  「何故この人は自分の子供でもないのに可愛がってくれるのだろう?」  やがて、小さな違和感は疑問へと変わる。  時間を重ね、女性を見ていくたびに疑問の答えを知り、義母親(ははおや)でありながらも嫌悪感を覚えた。  それは何気ない会話の中にある一つの文章だ  「私がいないと何もできないのだから」  私がいないとなにもできない。私がいないと……私がいないと……わたしがいないと……ワタシガ……イナイト……。  「ワタシガイナイトナニモデキナイノダカラ」  義母親(ははおや)は子供を想いすぎていた。  子供に依存していたのだ。  それに気付いた柊一は家にいたくない、独りになりたいと思うようになった。  しかし、柊一は家では常に独りのようなものだった。  仕事で帰らないことの多い父親。  母親という存在を見出した兄は義母親の依存を受け入れる。  義妹(いもうと)は兄に対して家族以上の愛を抱く。  兄はその愛さえも受け入れた。  傍から見れば幸せそうな家族でも幸せなのは一部だけ。  柊一は自分の中に居心地の悪さと嫌悪感が溜まっていくのを感じた。 それはまるでゴミ箱にゴミが次々と投げ込まれ、溜まるかのよう。  「ここにいたら、いずれ自分は壊れてしまう」そう思った柊一はちょうど完成した“タカマガハラ”の全寮制である高校へ入学しようと考えたのだ。  
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