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日本最大の湖である“琵琶湖”。
その中心に人工的に作られた円形の浮島がある。
さまざまな商業施設と研究施設、小中高一貫の教育機関がある水上都市だ。
その名は“タカマガハラ”
そこに住むのは多くは親元から離れた学生に研究員である。
東西南北には都市の中心へと道路が続いており、学生が通う学校は北東、東南、南西、北西にとわかれて位置していた。
南西に位置する高等学校。
第三高等学校は五階立ての幅広い二棟の校舎に体育館、図書館を備えた至って普通の高校。
その校舎の屋上に一人の少年の姿があった。
短髪の黒髪。眠たげな双眸も髪と同じ黒色。
腰よりもやや高い鉄柵に両肘を掛け、白く細い棒を咥えて少年は空をぼぉっと眺めていた。
少年が咥えているものは決して煙草ではなく棒飴だ。これでも少年は嫌煙家なのである。
口内で先端の飴を転がしながら、風に流れる雲を眺めていた。
時間としては三限目の授業時間を終盤に差し掛かった辺りであり、それなのにここにいるということはサボっているということなのだが、
――HR終わってからすぐここに来てるからなぁ……。
少年は一限目から授業をサボっていた。
サボっていることに悪気も感じず、少年は小さくなった飴を噛み砕く。
残った棒を濃紺色のブレザーの制服の胸ポケットにしまい、同色のズボンのポケットから新たな飴を取り出した。
風が吹き、前を留めていないブレザーと深紅色を主としたチェック柄のネクタイが揺れる。
包みを破き、口に咥えたのと同時に屋上の扉が開いた。
風に目を細めながらも少年は屋上に入ってきた人物に目線を向ける。
それは長身の女性であった。
若干赤く染めた長い髪を頭の高い位置で留めている。
見た感じから化粧は薄めのようだが唇に塗られた口紅は着ているスーツと同じ紅色。
銀縁の眼鏡を掛け、スーツの上に白衣を着ているその姿は保健医のようであり、科学者のようでもあった。
――まぁ、実際その通りなんだけどな。
女性はヒールを鳴らしながら近づき、一人分の距離を空けて手すりに背中からもたれ掛かる。
こちらを見ながらニヤリと笑いかける。
「よう、“シュウ”。こんなところで奇遇だな」
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