第一章 屋上の怠け者

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 シュウと呼ばれた少年――“佐藤 柊一”(サトウ シュウイチ)は女性の挨拶が白々しいと思った。 「俺がここにいるって分かってることだろ、先生? ほとんど会うんだからな」 「その言い方だと私がお前といつもここで逢引しているようだな」 「ちょ、やめてくれ」 「なんだ、照れているのか?」 「馬鹿言うな、誰が年季の入った年上に惚れるか」 「言葉に気をつけろよ、柊一。私はこれでもまだ二十代だ!」  柊一はこの保健医がもうすぐで三十代になることを知っていた。  しかし、そのことはあえて言わない。  「はいはい」と生返事しながら口から棒飴を取り出し、ため息を吐き出す。 「なんだ、悩み事か? それなら、“私”に相談してみなさい」  大人の魅力あふれる胸を保健医“立華 里香”は私という部分を強調して大きく反らせた。 「保健医にカウンセリングしてもらってもなぁ……」 「私に話せないことなのか? ああ、安心しなさい。私は美人保健医、恋煩いさえも治してしまう天才よ!」  正直鬱陶しくなってきた柊一は半目で隣の里香のことを眺める。  ――自ら美人やら天才やらって……。この人は大丈夫だろうか。  柊一は軽く首を横に振って今、思ったことを外に追いやった。  他人のことを憂いても仕方ない。  再度、棒飴を咥えた。 「まぁ冗談はさておき、ほんとに悩んでることはなんだ?」 「冗談ってなんだよ。俺がもし恋したときはどうすんだよ」」 「恋の悩みは自分で解決するもんだ」  ――丸投げかよ。この人、絶対経験少ないな。 「まぁいいや……」  口の中から棒飴を取り出し、溜息を吐き出す。 「なんていうか……不安……いや、心配?」  首を傾げる柊一。 「ああ……落ち着かないって言った方がいいかな」  手に持つ棒飴をくるくると回し、眺める。 「落ち着かない?」 「そう……。 俺さ、家にいたくないからこの“タカマガハラ”の高校に入学しようと思ったんだ」 「それは何というか……類を見ない理由だな……。 お前は“第一期生”だろ? だったら倍率は……」 「ああ……かなり高かった」  柊一は目線を棒飴から雲がたなびく青空へと移す。  ――かなり勉強したなぁ……。  
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