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「それはもう、かなり勉強しただろう?」
「ああ、した。家を出たい一心に。
その反動かな。合格通知がきて、入学したら気が抜けて何もやる気がなくなった。
ほんと、悪いと思うよ。ここに入学した奴らはみんな、誰しも“魔法遣い”になるっていう夢のために勉強したっていうのに……」
――逃げるために来た奴よりも明確な夢を持った奴の方がよかっただろうにな。
空から隣の里香へと目線を移すと里香は遠くを見るように目を細めていた。
赤いスーツの内ポケットから細く長い煙草を取り出し、口に咥えると先端に火を灯す。
吐き出された紫煙は風に乗ってどこかへと飛んでいく。
保健医が学校で、しかも生徒の目の前で煙草を吸うのはどうかと思いながらも柊一は顔をしかめるだけにしておいた。
話を聞いてもらっている手前、ここは我慢するしかない。
里香はもう一度、紫煙を吐き出すと話し始めた。
「……三十年前。ここ琵琶湖にてある異変が起こった」
里香が話し始めたのはここ三十年、この国の歴史についてだった。
「汚染していた琵琶湖の水が一晩にて純水となった。
この異変を調べた近隣の複数の大学は潜水カメラにより琵琶湖全体を調べた。そして、琵琶湖の中心、この“タカマガハラ”が浮いている下、一番底に“門”を発見する」
「知ってるよ、先生。ここでその歴史を何度も勉強した。
その“門”は若干開いた状態で、その隙間からこの湖を綺麗にした原因。
エネルギー体、今で言う“魔力”が発生していることが分かったんだろ?」
その後、日本は魔力のことを世界に隠し、密かに研究を行った。
そして、分かったことは湖に沈んでいる石や生物、水に魔力が溶け込んでいること。
この湖に物を沈めると時間はかかるが魔力を帯びるということだった。
里香は頷き、先を続ける。
「さらに国は研究を続け、十年後にはエネルギー資源としての利用に成功した」
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