三年1

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「高屋君、大変だったみたいだね」  昨日の出来事を自慢げに、しかも何度も披露する高屋を冷めた目で見ている佐々木に由利が話しかけてきた。 「あいつも相変わらずだよ。昨日、怖くて眠れなかったなんて言ってるけど、あんなの誰が信じるんだよ。この話をみんなに出来ることが嬉しくて眠れなかったって方がよっぽど信じられるよ。こんな話、他人にするものじゃないだろ」  佐々木は依然として苛立っていた。  しかし、自分ではまだ何に対して苛立っていたのか分かっていなかった。  そして、その苛々の原因が分からないことにさらに苛々させられた。  だけど由利はあっさりと心の奥を見透かしてしまったかのように言う。 「大祐君は高屋君が怪我させられたことが、悔しいんだよね。でも、あれだけ元気なのは、助けてくれたおじさんのおかげだね。まずはそのことに感謝しなきゃ」  佐々木は、そうか、と思った。  この苛々は悔しさだったのか。由利が言うなら間違いない。  そう思えるのは以前にもこういうことが何度もあったからだ。
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