三年1

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 例えば、高校一年の時の卒業式のことだ。  クラスの副委員長である佐々木は、強制的に卒業式に出席させられていた。  三年生に知り合いもいなかったので、これほど退屈なものはないと思っていた。  まさに本当の他人と言うべき人の卒業などに感情移入をするのは不可能だ。  早く終わらないかとパイプ椅子に座って壇上に上がる卒業生を見ていた。  パイプ椅子に長時間座らされていたせいで尻が痛かったことは鮮明に覚えている。  それでも式は一応、感動的なものに仕上がっていた。  卒業生代表が感動的な言葉を言い、それに応えるように在校生代表が言葉を返す。  そして最後は合唱で締められた。  形式上は上出来な卒業式だった。  しかし、その光景には違和感があった。  やはりそれは形式上なのだ。  表層的なもので中身が伴っていなかった。  その場にいるほぼ全員が涙を流さず、むしろ上の空で式をやり過ごしていた。  こんなに卒業式って味気ないものなのかと思わずにはいられなかった。  普通の卒業式は、生徒や保護者、先生が目を腫らして抱き合うような雰囲気の中で行われるものではないか。  あれはイメージの中だけだったのかと失望した。  こんなものだったらやってもやらなくてもどっちでも良かっただろうと思った。
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