三年8

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 そうは言ったがすぐに、今言うべきことではなかったと後悔した。  佐々木は表情こそ変えなかったものの、困っているのは伝わってきた。  いつもであれば佐々木の思惑を読み取り、協力していたから当然だろう。  この時もそうしてもらえると思っていたはずだ。  だけど、この近辺でこれだけ大きな事件が起きているのに今までほとんど興味を持っていなかったと言われてやりきれなさを感じた。  男であればそんなものなのかと許せなかった。  そういう趣味嗜好の人間がいて、むしろ犯人に共感している人間がいるという話も聞いたことがある。  人間の本能であるから仕方がないと平気で言ってのける連中がいるのだ。  男がそんな態度でいたらいつまでたっても世間は性犯罪者に寛容のままだ。  結果として由利の発言は高屋を勢いづかせただけだった。 「よし。もうこいつはほっといて、俺たちだけで犯人を捕まえようぜ」  そう言ってこっちを見てきた。  由利としては何とも答えられなかった。  戸惑ってしまう。今の状況では佐々木に従うのが正しいことは理解していた。  それでも今さら高屋を止めるのはおかしい。
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