三年9

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「それはそうなんだけどさ。何かあいつばっかりってのも悔しいだろ。ひったくりの時も捕まえたのはあいつだし、去年も……」  高屋はそこで言葉が詰った。  切なさがこみ上げてくる。 「とにかく、あいつはいつもそうなんだ。いいとこばっかり一人占めして」 「いいんじゃないの、それで。大祐君一人だったら今回も多分何もしてないと思うよ。高屋君がいるから今、何とかしようと頑張ってるんだよ。いいコンビでうらやましいな」  高屋はそう言われると照れくさくなる。 「俺はあいつの踏み台みたいなものか」 「うーん、踏み台がいい表現だとは思わないけど、そういうことかな。でも、高屋君の役割ってすごく重要だと思うよ。何にせよ動かし始めるのが一番大変だから。動いてしまえば後は意外と簡単に転がっていくことだってあるからね」 「それはあれだな。最大静止摩擦力と動摩擦力の関係だな」  この間、問題集で見たことがふと頭に浮かんだ。  最大静止摩擦力は動摩擦力よりも大きい。  つまり物体が運動を始める瞬間が一番力がいる。 「そういうことだね。さっきの踏み台よりよっぽどいいよ。高屋君の敵は最大静止摩擦力で大祐君が動摩擦力だ。だから今回も大祐君を信じようよ。高屋君はもう事件を解決の方に動かしだしたから後は大祐君が解決まで持って行ってくれるよ」
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