三年10

2/17
前へ
/263ページ
次へ
 人間というのは、今ということに関して鈍感すぎるのではないか。  失くして初めて分かる大切さ、とでも言うのだろうか。  いつだって感情というのは過ぎ去ったことに沸き起こる。強姦だけじゃない。  いじめにしても同じことが言える。  いじめられた子が自殺して初めて罪を実感するのだ。  しかし、それではもう遅い。  この犯人もいつか自分の罪を悔いる時が来るのだろう。  だけど、そんなことでは被害者たちの傷が消えることはない。  その時、佐々木の頭の中で引っかかるものがあった。  何かと思って探ってみると、掴んだのはいじめという言葉だ。  なぜ今、いじめという言葉が頭の中に出てきたのだろう?   ふと一つのことが頭によぎった。  もしかしたら、あの時のことが関係しているかもしれない。  あの時のことというのは去年の出来事だ。  昼休みには突破口は一つだと言った。  正直、あれは嘘だった。  突破口にはなりえないと思っていた。  それはほとんど塞がってしまっている。  だけど、もし犯人がわざわざ制服を着て坊主頭にしたというなら突破口はもう一つあることになる。  つまり、高屋に罪を着せようとする可能性のある人物。  むしろそちらこそ唯一の突破口になるかもしれない。  だけど、そのことを高屋の前では口にしてはいけないと思った。  なぜなら、高屋の心の深い傷に触れなければ話が出来なくなるからだ。  あの時、佐々木は初めて高屋が落ち込んでいるところを見た。  そして後にも先にも高屋のそんな姿を見たのはそれが最後だった。  それは時間は流れているという当たり前で無慈悲なことを改めて思い知らされた出来事だった。
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加