三年1

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 一通り、話を終えた高屋が近づいてきた。  佐々木と由利の会話を聞いていたみたいだ。  自分の話に熱中していたように見えたが、高屋にはこういう器用なところがある。  さすがは元キャプテンだ。自分の話ばかりでなく、周りの話も聞き逃さない。  聖徳太子が豊聡耳と呼ばれる所以となったあのエピソードが思い出させる。  厳密には違うが、ニュアンスは似たようなものだろう。 「本当にあのおっさんには感謝しないとな。あのおっさんが助けてくれなきゃ、俺、今頃死んでたかもしれないし」  やはりこのことを一番言いたいのだろう。まだにやにやしていた。 「まあ、死ぬことはなかっただろうけど。でも、感謝すべき人を、おっさん呼ばわりはないだろ。それにしても、喧嘩を止めに入る人なんているんだな」 「喧嘩じゃねえよ。一方的に俺がやられただけだ」 「どっちでもいいだろ、そんなの。そういうことじゃなくてさ、自分が危ないかもしれないのにわざわざ止めに入るメリットが分からないんだよ。俺だったら絶対、見て見ぬふりすると思う」 「それはあれだな。俺の日頃の善行があってこそだな」 「俺もそう思うよ」  佐々木は真面目な話をしたかったのに、冗談でやり過ごそうとしている高屋に目一杯の皮肉を返した。  しかし高屋は、「やっぱり?」と嬉しそうに言う。 「真面目に捉えるなよ。嫌味だよ」
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