二年2

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 佐々木は自分の掌と向き合い、大きく深呼吸をした。  そして、カッターナイフの刃で手首をなぞった。  わっとか、ひゃっとか、周りから言葉にならない声が上がった。  その声は、恐怖と不安の混じった不快なものだった。 「おい、止めろって」  高屋の声だけがはっきりと形がある。  カッターナイフでなぞった後から赤い液体が流れてきた。  それは佐々木の腕を伝い肘から、一滴、二滴と地面に赤い斑点を作った。 「四対一ならカッターを使ったって卑怯じゃないよな」  佐々木は口元だけで笑みを浮かべる。  一歩、二歩と四人の方へ歩いて行く。  歩いた軌跡を表わすように地面には赤い斑点が出来ていた。  そして背の高い男の前に立った。  その男のまさに目の前、眼球との距離十センチメートルのところにカッターナイフの刃を差し出した。  佐々木は何も言わず、刃についた赤い染みを見せつけるように男の目の前で二度、三度とカッターナイフを振った。  次の瞬間、四人が一斉に逃げだした。  みっともない声を上げながら走って行った。  そして佐々木と高屋といじめられっ子だけがその空間に取り残された。
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