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「お前、手首大丈夫なのか?」
高屋が訊いてきた。
佐々木は何も言わず高屋に手首を見せながら手首に貼られたテープをはがした。
そこには、破れた水風船があった。
えっと高屋が驚いた顔を見せた。
佐々木は、こいつは相変わらず手品に疎いなと思った。
だけどこれを手品と呼んでもいいものかという思いもあった。
「血は偽物だよ。俺はどこも怪我してない」
そう言ってポケットからティッシュを取り出し手首を拭いた。
「どういうことだよ?」
高屋の声には少し怒りが含まれていた。
本気で心配したのに、という感情があったのだろう。
また種明かしをするのか、と佐々木は面倒くさく思った。
仕掛けを見せている時点でほとんど種明かしをしたようなものだが、高屋にも分かるように一つずつ説明した。
まず、この血液もどきは赤い絵の具を溶いただけのものだ。
そして、テープは本物の肌色に限りなく近いものだった。
近くで見ればすぐに分かるのだが、遠くからではそう分からない。
昔、体に何か仕掛けをするのに利用していたもので、今回は薄暗い体育館の中で、しかも手首の内側に仕掛けて左手をポケットに突っこんだままでいたのでまず見つかることはないだろうと思っていた。
しかも、手品をしますと宣言してやるわけではないので尚更だ。
またこのテープのおかげで水風船は必要以上に大きく割れることはなく、じわじわ液体を流れ出してくれた。
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