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またしても二人の間に沈黙が広がった。
何とかしたかったが佐々木の決意は変わらない。
だったら少しでも安全な方へ導きたかった。
由利が悩んでいるうちに佐々木が口を開いた。
「それにしてもあんな高屋を見たのはあれが最初で最後だったな」
とにかくこの話題を終わらせようとしているみたいだ。
話の流れから言ってもおかしくはない話題の切り替え方だ。
「去年のこと?」
「そう。いつも調子いいし、落ち込むことなんてないと思ってたけど、あんな風に落ち込むこともあるんだなって思った」
「そりゃそうでしょ。高屋君だって普通の人なんだから」
こういう話を聞くと日常に戻った気がした。
心が少し軽くなった。
「あいつにはそういう感情が欠落してると思ってたよ」
由利が小さく笑った。
「ひどいね。あのあと一週間ぐらい落ち込んでたんじゃなかった?」
「そうだっけ?」
当時のことをはっきりと覚えているはずだがあえてとぼけて見せたのだろう。
「そうだよ。確か一週間ぐらいしてから少しずつ明るさが戻ってきたんだよ。あの時は初めて会った時の大祐君以上に話しかけにくかったな」
佐々木は苦笑していた。
「そうかもね」とだけ言った。
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