三年12

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 去年のいじめが関係しているんじゃないだろうか。  高屋は予備校の授業を受けながら去年のことを思い返していた。  可能性はなくはない。むしろ高いのではないかと思う。  ぱっと黒板を見るとずいぶん板書を取るのが遅れているのに気付いた。  慌てて数式の羅列をノートに書き写した。  でもすぐに手が止まる。  あの後、河合はどうなったのだろう。  あの事件の後、河合を見たのは一度だけだ。  それは人数合わせで毎回出席させられる卒業式の時だ。  その時の卒業証書を受け取る河合の表情は晴れやかで堂々としていた。  その表情は鮮明に脳裏に刻まれていて、あの時に少しだけふっ切れたような気がした。  あの表情を作ったのは自分たちだと思えば、もう二度と河合と一緒に野球をすることがなくてもいいんじゃないかと思えた。  だけどその半面、もう一度、あの表情の河合と話だけでもしたいとも思った。  唯一の後悔は、あの時に始めから佐々木に全てを話しておけばよかったということだけだ。  憧れだった人がいじめられているということを素直に言えなかったちっぽけなプライドがそれを邪魔した。  もしかしたら佐々木なら別の結末を作ってくれたのではないかと今でも思う。  気が付くと講師が黒板を消し始めていた。  まだ写しきれていないところまで消されそうだったので急いで意識を現実に引き戻す。  しかし、今日は全く集中出来ていない。  いろんなことが起こりすぎた。  とにかく最低限のこととして板書だけでも取っておこうとまた数式をノートに書き並べた。
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