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十分ほどしてもとの場所に戻ると彼も家族もいなくなっていた。
もう一度探してみると、今度は洋画のコーナーにいて返却されたDVDを棚に戻していた。
話しかけるなら今だと思い、「すいません」と声をかけた。
自分が身構えているのが分かる。
この人が犯人かもしれないと思うと体に力が入った。
「はい」と高い声が返ってきた。
アルバイトらしい上品な言い方だ。
しかしすぐに声をかけたのが佐々木だと気付き、あっと声を出した。
この反応はもしかしたら、と思ったので、佐々木は一度大きく息を吸い込み、心を落ち着かせて、「ちょっと話が……」と恐る恐る言った。
しかし、そんな佐々木の言葉をかき消すように嬉しそうな表情を作り、「おお。どうしたんだよ? 何か探してるのか?」と彼は言ってきた。
握手でも求めてきそうなほどの歓迎ぶりだ。
どういうことだ、と状況が分からなくなる。
少なくとも自分が会いに来たことを歓迎されるとは思っていなかった。
「いや、店に用があったんじゃなくて……」
佐々木は思わず正直に言ってしまった。
「何だ? 俺に用か?」
この暢気な反応を見ると、もうこれは疑う余地なくこの人は関係ないと思った。
だけどまだあのことと関係がないと結論づけるのは早すぎる。
もう少し様子を見てみようと、佐々木は探りを入れていく。
「まあ、そういうことです」
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