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佐々木は急に見知らぬ人に声をかけられて戸惑っていた。
まず初めに思い浮かんだのは、誰かと間違えているのではないかということだ。
「まあ、俺のことなんて覚えてるはずがないだろうけどな」
男は頭を掻きながら言った。
「佐々木だろ?」
「そうですけど」
名前まで知られているのだから人違いではないらしい。
「俺だよ。ほら」
男は照れくさそうに言っている。
「お前らに捕まえられたひったくりだよ」
あまりに唐突なことを言われたから理解するのに時間がかかった。
そう言われればそう見えないこともないが、あの時は背中を追いかけていて何度も顔を見たわけじゃない。
確か最後に疲れ果てて歪んだ顔を見ただけだ。
そう言われてもすぐには信じられない。
仮にそうだとしてもなぜここにいるのか分からない。
「何だよ。信じてない顔だな。それとも忘れちまったのか? まあ俺としてはどっちでもいいんだけどな」
「忘れたわけじゃないですけど、そりゃ、急にそんなこと言われて信じられるわけないですよ。まあ俺にしてもどっちでもいいんですけどね。それより何してるんですか?」
言いながら、自分に恨みのある人間とはこの人のことではないかと身構えた。
「お前こそ、こんなところで何してるんだよ? お前といいあの高屋って奴といい、警戒心はないのか?」
男は呆れたというのを露骨に示していた。
「どういうことですか?」
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