三年19

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「彼女は被害にあったからといって自殺するような子じゃなかった。絶対に犯人と闘おうとしたはずです。だけど、彼女は闘わずして自殺を選んだ。それは何でなんだろうってずっと考えてたんです」 「そ、それはそれほど辛い目に遭ったからじゃないのか? 何か特別な理由でもあるのか?」 「昔、テレビで見たことがあるんです。海外の強姦致死罪で捕まった男の話です。警察では容疑者は浮かんできていたのに決定的な証拠がなかった。そこで遺体を調べることにしたんです。その遺体に付いた体液をね。その体液は、検査の結果、容疑者のものと一致していました。そして、犯人逮捕に至りました」  鈴木は佐々木の言おうとしていることを察したのか愕然とした表情になった。  佐々木は続ける。 「そういうことです。彼女は自殺の手段としてリストカットを選びました。聞いた話ですが、リストカットというのは自殺の手段としてはかなり難易度が高いそうです。何て言ったって、大動脈を切断しなければなりませんから。よっぽどの決意を持っていないと出来ることじゃありません。ましてや、被害に遭って絶望している女の子には不可能です。じゃあ、なぜ彼女はリストカットをしたのか? それは自分の体を調べやすいようにしたかったからだと思うんです。一番簡単と言われている飛び降りなんかしたら体がぐちゃぐちゃになっちゃいますから」  自分がこんなことを言うとは夢にも思わなかった。  だけど、そんなはずはないという思いを心の中の理性を超えた感情が飲み込む。 「僕は確信を持ってます。彼女の体には犯人を特定する決定的な証拠が残っている。そしてそれは今警察にある。彼女は闘わずして自殺したんじゃなくて、闘うために自殺したんだって」
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