三年20

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 由利は高屋と無言のまま先を歩く佐々木を追いかけた。  しばらくは高屋もかける言葉が見つからなくて何も言えないでいたが、ようやく別れ際に、「おい、佐々木」と声をかけた。 「何?」  佐々木が振り向く。   「本当に明日でいいのかよ? さっきの話をそのまますれば警察だって動いてくれるんじゃないのか」 「いいんだよ、明日で。とりあえず今日は今までの話を整理しなくちゃいけないしな」  佐々木はそうは言っているが、これは嘘だなと思った。 「だけど、由利が危ないんじゃなかったのかよ。あいつが開き直ってなりふり構わずってことだって考えられるだろ」 「確かにそうだな。でも、あいつはもうそんなことはしないと思う。根拠はないんだけど」 「でも、だからって、明日にすることはないんじゃないか? 今日でも明日でも変わらないだろ」 「いいんだって。それより、お前、そろそろ予備校の授業、始まるんじゃないのか?」  高屋が腕時計を見る。 「あ、やばい。あと十分だ」 「ほら、早く行けよ」 「本当に大丈夫なんだろうな? また、お前一人で何かしようと企んでるんじゃないのか?」 「もう本当にこれ以上ないよ。そんな心配してないで、あと十分しかないんだろ。急げよ」  高屋はもう一度、腕時計を確認して、「じゃあ、また明日な」と言って、自転車を急いで漕いで予備校へ向かった。
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