三年20

3/5
前へ
/263ページ
次へ
「俺たちも帰ろうか」  そう言って佐々木は歩き出した。 「今日は図書館には行かないの?」  由利も行くつもりはなかったが一応の確認だ。 「さすがに今日は行く気がしないよ」  佐々木は苦笑していた。  二人で並んで歩いていたが、会話がなかった。  佐々木は考え事をしているみたいで、由利のことなんか忘れているみたいだった。  また、考え事をしているのは由利も同じだった。 「ねえ」  由利が声をかけた。 「何?」 「小林さんのこと、好きだったんでしょ?」  佐々木はふっと息を吐いて軽く笑った。 「何言ってるの?」 「きれいな人だったもんね。どこか大人っぽい雰囲気があって、あたしなんかより大祐君に似合ってた」 「急に何を言い出すんだよ」  相手にするつもりがないというように佐々木はそっぽを向いてしまった。  佐々木が小林のことを気にかけていたのは間違いないと思う。  それが、好きという感情に至らないとしても。  その小林があんなことになったと聞いて黙っていられなくなったんだと思う。  悔しい気もするが、分かる気もする。  もしあの夢が現実なら、あの時の表情は明らかに後悔していた。 「そんなに悩まなくてもいいんじゃないかな?」 「だから好きじゃないって」 「その話じゃなくて、鈴木先生のこと。許せない気持ちと同情する気持ちで思い悩んでるみたいだったから」
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加