三年20

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「いや、あいつを誘うように言われてるんだよ。俺だってあんな奴と休日も一緒にいたくない」 「他にも誰か来るの?」 「野球をするからには二十人ぐらいは来ると思う」 「野球ってプロ野球じゃないんだ。何でもいいや、もう。とにかく今週末は空けとくね」  あれほど怯えさせられた強姦事件はこれで幕を閉じることになるだろう。  それは鈴木は今日中に自首しに行くと確信しているからだ。  その根拠は佐々木の最後の言葉を聞いた時の鈴木の顔だ。  あの時になって初めて鈴木は相手のことを考えたんだと思う。  佐々木の言っていたように、鈴木は復讐の大義名分を使って、強姦を繰り返していた。  そうすることで罪の意識や被害者の感情を忘れられたのではないかと思う。  だけど、佐々木の言葉に、その大義名分を取り上げられ、押し込めていた感情が溢れだした。  あらゆる痛みを感じた悲痛な表情だった。  それを見た時、この人は本来、もっと優しい人間で、人間味のある人だったのではないかと思った。  佐々木はそれをもっと早い段階で感じ取っていたのだろう。  だけど、鈴木のやったことは許されることじゃない。  そう考えると佐々木の気持ちも分かる気がした。  心のどこかで犯人を美化しようとしてしまうことが何より許せないのだ。  犯人がどんなに人格者であっても、被害者の気持ちは変わらないのだから。
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