エピローグ1

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 あの時の佐々木は駆け引きでそう言ったようには見えなかった。  心の底からそう信じていたはずだ。  そこではっと思いついた。  あんなことを言うのは佐々木らしくなかった。  だから今は恥ずかしくなってそれを否定しているだけなのだ。 「そんなに意地を張るなよ」 「何がだよ?」 「別に」  珍しく佐々木より優位に立てたことが嬉しかった。  学校に着くと、校門に何人もの報道陣がいた。  カメラや見慣れない機材を抱えて生徒に話を聞いていた。  そう言えば朝のニュースで、あの有名進学校の教師がまさかの凶行、なんて大げさなタイトルをつけられていたのを思い出した。  勉強が出来るイコール人間が出来ているなんて常に成り立つとは限らない。  その成立確率はどんな人間であっても変わらない気がする。  それでも世間はそれを面白がって騒ぎ立てる。  高屋たちは何人かの記者に話しかけられたが無視して歩いた。  生徒の中には嬉しがってインタビューに答えている人もいた。 「あんなインタビューに答える奴もいるんだな」 「せっかくのテレビに映れるチャンスだからな。一生に一度あるかないかの。お前こそ、真っ先に答えると思ったけどな」 「俺はそんなモラルのないことはしない」  佐々木はにやりと笑った。 「お前の口からモラルって言葉が出てくるとはな」 「茶化すなよ。でもまあ、俺が全く関係のないことだったらはしゃいで答えてたかもしれないけどな」
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