エピローグ3

2/6
前へ
/263ページ
次へ
 心地よい秋風が体をなでていくのを感じながら、由利は佐々木と並んでバックネット裏で野球を見ていた。  さびれた球場で、観客席はボロボロだった。  その中でもましなところを見つけて佐々木と寄り添うように座っている。  高屋はベンチに来るように言ったが、何となく佐々木と二人きりで見たかった。  カンと高い音が鳴って、ボールが大きく弾む。  テレビでしか野球を見たことがないので、軟式ボールの弾み方が新鮮だった。  テレビで見るほど鮮やかなプレーはないが、これはこれで楽しめる。 「高屋君、楽しそうだね」 「そうだな。良かったよ」  佐々木の心はここにあらずでぼんやりとしていた。 「どうしたの?」 「え?」 「何かぼうっとしてる」  佐々木は前を向いたまま話し出した。 「あれ以来、ずっと考えてるんだ。本当にこれで良かったのかって」  由利たちはあの日以来、そのことについて話すことはなかった。 「良かったんじゃないの? 少なくとも高屋君は喜んでるよ」 「もし、俺が鈴木に事件のことを話さなければ、どうなっていたのかな? どっちにしろ、あの日には鈴木は逮捕されてたはずなんだ。俺のやったことは意味がなかったどころか、鈴木の罪を軽くしてしまっただけなんじゃないかって気がする」
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加