エピローグ3

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「時々不思議に思うことがあるんだ。被害者が死刑を望んでいるのとか見るとそれは正義なのかなって。法に従って人を殺そうとするのは正義で、法が死刑に出来ない許しがたい人間を殺すのとはどう違うんだろうって。でも今回のことで思ったな。そのどれもが正義なんだって。高屋を襲った人も多分あのひったくりの人に止められなかったら殺してたと思う。そうなってたとしてもあの人は一切後悔してなかったはずだ。鈴木も同じだったんじゃないかな。あのまま全てがあいつの計画通りにいってたとしたらあいつも後悔することはなかったんじゃないかな。それがあいつなりの正義だったんだから」  佐々木がずっと悩んでいるのはこのことだったのか。  悪だと分かりながらそれをしてしまうのは救いようがないが、自分を正義だと思って、結果として誰かを不幸にするのは誰も責めることが出来ない。  佐々木が鈴木を憎みきれないのはそこから来ていて、それがもどかしく感じているのだろう。 「もっと素直になればいいんじゃない。自分の感情をそのまま受け取れば」  もう一度風が二人の間を通り抜けた。  その風は二人の間にある空気を持ち去り、心地よさを残していった。 「性善説と性悪説ってどっちなんだろうな?」  佐々木が風に目を細めながら呟いた。   「あれは極端な考え方でしょ。前もそんなこと言ってなかった?」
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