一年1

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 大声を出していたのは、四十代だろうと思われるサラリーマン風の男だった。  その声を聞いた瞬間、佐々木は無意識に地面を思いっきり蹴っていた。  気付いた時にはひったくりを追いかけていた。  見たところ、ひったくりとの距離は五十メートルぐらいだろうか。  だが、佐々木は脚の速さには自信があった。  このぐらいの差ならすぐに追いつける。  しかし、その予想とは裏腹になかなか差が詰らない。  相手もひったくりするだけあって、逃げ足は速かった。  全力で走っているのだがこのままでは追いつけない。  佐々木は中学から帰宅部だったので体力には自信がなかった。  スタミナ勝負になったら勝ち目はない。  そう思い、仕方がないので追走の妨げになっていた自分の鞄を生垣に投げ捨てた。  あとで取りに来るから誰にも盗られずに残っていてくれ、と祈った。  そして、ギアを入れ替えたように一段とスピードを上げる。  これなら追いつけると確信した。  それにしても、何で図書館の方へと逃げるんだ、せめて、駅の方へ逃げてくれたら、同じ道を何度も通るというような不毛なことをせずにすむのに、と考えながら走っていると、後ろから猛スピードで自転車が迫ってきた。  並ぶ間もなくその自転車は追い抜いていく。  その後ろ姿は見覚えがあった。  自分と同じ制服を着た、体格のいい坊主頭だ。  間違いない、高屋だ、と思った。  どこかで自分と同じように、あのサラリーマンのSOSを聞いたのだ。  自転車と人間の脚力なら結果はもう決まったようなものだ。
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