エピローグ3

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「鈴木も今は自首による情状酌量を求めてるけど、いつか、今は忘れてる罪悪感を思い出して、自分の罪に苛まれる時が来てほしい。刑期を終えた後のことを考えて前向きに生きていくんじゃなくて、ひたすら自分の罪を見つめて、過去だけを見て生きていってほしいって思う。刑期を終えたからって自分の罪が消えることはないんだって分かってほしい」  佐々木の素直な感情というのはこういうものなのかなと思った。  常にいろんな感情が葛藤を繰り返している。  佐々木は同情する一方、自分のやったことは変えられないのなら、せめてこれから先の時間は鈴木を苦しめるための時間であってほしいと思っている。  やはり自分で手を下せないもどかしさを感じているのだ。  大好きだった、おそらく初恋の人であった彼女を死に追いやった鈴木を自分の手で罰を与えたいのにそれが出来ない。  だったら、せめて鈴木の中の良心が代わりに苦しめてくれると思いたがっているのだ。  そこでふと、いつまでも嫉妬している自分に気付いた。  佐々木は小林の告白を一度断っているし、本人から好きだったということを聞いたこともない。  あの夢も現実とは限らない。  ただの嫉妬で見た夢かもしれない。  また、カンと音が鳴って大きな歓声が聞こえた。  外野の間をボールが転がっていき、バッターがベースを全力疾走している。  佐々木の方を見ると、佐々木もこっちを向いた。  じっと二人で見つめ合った。  佐々木が小林のことを好きであったかはどうでもいい。  好きでないと言うならそれを信じてみようと思った。  そして、誰も見ていないことを確認して、そっと唇を重ね合わせた。
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