一年1

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 これではもう自分の出番はないなと思ったので、追走をやめようかとスピードを緩めると、ひったくりが自転車に追われていることに気付き、マンションの敷地へと続く階段を上って行ってしまった。  この辺はマンションが多い。  そのことを知っていたからここへ逃げ込んできたのかは分からないが、そうだとすれば計算高い理知的なひったくりで、たまたまこんなところに階段があったとすれば、非常に運のいいひったくりだった。  いずれにしても、そう簡単には捕まえられそうにないな、と思った。  もう一度スピードを上げて追走を続けた。  高屋は自転車を放り出して階段を上り始めた。  佐々木が階段に到着すると、見た感じ三十段以上はあるように思える階段を、ひったくりはもうほとんど上りきってしまっていた。  高屋は真ん中ぐらいにいる。  それを確認すると、大きく一つ息を吐き、前を行く二人を追いかけた。  さっき一度スピードを落としたせいで息が上がっていた。  スピードを一定にして走った方が燃費が良いのは人間も一緒だ。  今の状態ではこの階段はかなり辛いな、と思った。  野球部の高屋とは違い佐々木は帰宅部なのだ。  このままでは足手まといになるような気がしてならない。  しかし、思いのほか高屋にはあっさり追いついてしまった。  そして、階段を上りきる頃には追い抜いていた。  期待はずれもいいところだった。  こいつは本当に野球で有名だったのか。  そんな疑問を浮かべながらも走り続ける。  しかし、やはり階段はかなりきつかった。  地面から脚に伝わる反力を受け止めきれない。  もう限界だとさえ思うほどに息が上がっている。  だけど、スピードを緩めてはならない。  高屋には期待出来ないのだ。
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