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そして、ひったくりはマンションの敷地を通り抜けて、住宅街へと逃げ込んだ。
この時点で、ひったくりとの差はもう十メートルもなくなっていた。
閑静な住宅街にリズミカルな足音が響く。
呼吸がさらに苦しくなり、足が前に進んでいないのではないかという錯覚もあったが、だいぶ差を詰められたようだ。
逆に、高屋との距離はみるみる離れていった。
住宅街に入って、ひったくりとの距離は一歩ごとに着実に詰っていった。
ひったくりもスタミナ切れを起こしたのだ。
佐々木も限界に近かったが、最後の気力を振り絞り走り続ける。
格子状になっている住宅街の道を走る。
ひったくりが角を曲がった。
佐々木も追いかけて曲がる。
この時点でもう差はほとんどない。
五、六メートルぐらいだ。あと少しの辛抱だ。
そのまま二十メートルぐらい走った。
ひったくりとの距離はもうほとんどなくなっていた。
手を伸ばせば届くぐらいの距離だ。
ひったくりの息遣いも聞こえる。
ここしかないと思い、一か八かひったくりの背中に飛びかかった。
伸ばした腕がひったくりの首に絡まり、そして体ごとのしかかる格好になり、ひったくりはバランスを崩し倒れた。
もう抵抗する体力もないと言うように激しく息を切らしていた。
それは佐々木も同様だった。
もう動けない。仰向けになって倒れていると空はすっかり暗くなっていることに気付いた。
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