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しばらくして、高屋が追いついてきた。
あれだけのスピード差を見せつけられても、まだ諦めていなかったのだ。
「捕まえたのか」と叫びながらこちらに来る。
さすがに帰宅部の佐々木にはもう返事をする気力は残されていなかった。
とりあえず体を起こした。
「あ、佐々木じゃないか」
佐々木の顔を見て、高屋は心底驚いたという顔をしている。
「お前、野球部の、くせに、脚が、遅すぎるん、だよ」
座り込んだままだが、なんとか息を整えて高屋に言った。
この言葉が高屋との初めての会話だった。
「俺は、キャッチャーだから脚が遅くてもいいんだって。その代わり、お前はバテバテだけど、俺は息一つ切らしてないだろ」
事実、高屋は全く息が乱れていない。
しかし、この局面においてその体力は何の役にも立たなかっただろう。
そうなじってやりたくなったが、そんなことを言う気力はない。
程なくして、体力がまだ戻らないのか、観念したのか、逃げずに倒れこんでいるひったくりを見ながら高屋が言った。
「警察呼ぶか?」
その言葉にひったくりが一瞬反応を示したように見えたが動こうとはしなかった。
「それは、ひったくられたあの人が決めればいい。俺たちの役目はあの人に鞄を返して終わりだ」
佐々木は立ち上がりながら答えた。
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