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今、警察を呼べば自分たちまで警察に行かなくてはいけないことは目に見えていた。
そんな面倒なことは出来る限り避けたい。
高屋は何か言い返してくると思ったが、何も言ってこなかった。
高屋も始めから警察を呼ぶ気はなかったらしい。
「それにしても、お前、脚が速いな。何か部活やってたのか?」
高屋が訊いてきた。
「いや、やってない」
「やっぱりそうだろうと思ったよ。部活やってりゃ、この程度の距離を走ったところで、そんなにバテるはずないもんな」
「なんだよ。馬鹿にしたいだけか」
その言い方には腹が立った。
別に体力に関してそこまでのプライドは持っていないが、ほぼ初対面の奴に馬鹿にされるのは気分が良くない。
「そうじゃないって。怒るなよ」
高屋が慌てて手を振った。
「いや、それだけ脚が速けりゃ、部活やればいいのにって。もったいねえよ」
「興味がないんだ」
「野球なんてどうだ? 多分、その脚なら今の野球部の中でも一番速いんじゃないか。今から頑張れば三年になる頃には、俊足の一番バッターになってるかもよ」
高屋は左打ちの格好をした。
高屋の中では俊足の選手と言われれば左打ちなのだろう。
「だから、興味がないって言ってるだろ」
それを聞くと高屋は驚いたように、えっ、という声を出した。
「野球に興味がない男なんているのかよ」
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