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佐々木は思わず苦笑する。いつの時代の人間なんだと思った。
今は野球を始め、あらゆるスポーツの人気が低迷しているのは明らかだ。
男はスポーツをしなければならないという風潮はなくなっているのだ。
「野球に興味がない男なんて山ほどいるだろ。お前の感覚で決めつけるなよ」
「いや、俺は野球に興味がない男には初めて会ったな。あれ、ちょっと待てよ。お前、部活もしてないのになんでこんな時間にこんなところにいるんだ?」
高屋がさらに訊いてくる。
「何だっていいだろ」
佐々木は説明するのが面倒だったのでこう答えた。
「言えないことなのか?」
高屋の口調には露骨な興味が含まれていた。顔もにやけている。
佐々木は変に勘繰られたくなかったので正直に答えることにした。
「図書館だよ。勉強してた」
高屋は、へえ、と言った。
何を想像していたのかは知らないが、明らかに期待外れだったようだ。
「さすがにクラス一位なだけあるな」
「家で勉強したくないだけだよ」
「それ、俺も一緒だ。俺も家では勉強しないからな。学校でも勉強、家でも勉強じゃ、やってられないもんな」
「お前、いつ勉強してるんだよ?」
こんな時間まで部活をして、家でも勉強してないとなるといつ勉強しているのかというのは当然の疑問だ。
「それは時間を見つけてだよ」
高屋は含み笑いを浮かべていた。
その顔は勉強していないということだろう。
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