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そうこうしている内に、ひったくられたサラリーマンも合流した。
そこにいる誰よりも疲れ果てていた。
手を膝に当てて、顔を上げることが出来ないようだ。
佐々木はひったくりが倒れた時に落とした鞄を拾い上げ、サラリーマンの横に置いた。
「助かった、よ。あの、お礼……」
サラリーマンは息絶え絶えで、なんとか言葉を絞り出した。
他にも何か言っていたが、まだ顔を上げられないので、言葉は地面にぶつかって消失してしまった。
一方、佐々木は既に息が整っていたので、下を向いたままのサラリーマンに一言いってから立ち去ろうとした。
「お礼はいらないです。この後どうするかは、あなたたちで決めてください」
これ以上この事件に関わり合うつもりはなかった。
お礼なんて欲しくなかったし、これ以上時間がかかるのは嫌だった。
このまま顔も見られず立ち去った方が都合がいいと思った。
それに投げ捨てた鞄のことも気になっていた。
しかし、これに異を唱えたのはなぜか高屋だった。
「お前、何言っているんだ」
真顔でこちらを見ていた。
「お礼がしたいって言ってるなら、お礼は素直に受け取っておくべきだろ。このままじゃ一方的に恩を押しつけられて、このおっさんも寝つきが悪くなるだろ」
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