一年1

16/17

61人が本棚に入れています
本棚に追加
/263ページ
 そうこうしている内に、ひったくられたサラリーマンも合流した。  そこにいる誰よりも疲れ果てていた。  手を膝に当てて、顔を上げることが出来ないようだ。  佐々木はひったくりが倒れた時に落とした鞄を拾い上げ、サラリーマンの横に置いた。 「助かった、よ。あの、お礼……」  サラリーマンは息絶え絶えで、なんとか言葉を絞り出した。  他にも何か言っていたが、まだ顔を上げられないので、言葉は地面にぶつかって消失してしまった。  一方、佐々木は既に息が整っていたので、下を向いたままのサラリーマンに一言いってから立ち去ろうとした。 「お礼はいらないです。この後どうするかは、あなたたちで決めてください」  これ以上この事件に関わり合うつもりはなかった。  お礼なんて欲しくなかったし、これ以上時間がかかるのは嫌だった。  このまま顔も見られず立ち去った方が都合がいいと思った。  それに投げ捨てた鞄のことも気になっていた。  しかし、これに異を唱えたのはなぜか高屋だった。 「お前、何言っているんだ」  真顔でこちらを見ていた。 「お礼がしたいって言ってるなら、お礼は素直に受け取っておくべきだろ。このままじゃ一方的に恩を押しつけられて、このおっさんも寝つきが悪くなるだろ」
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加