一年2

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「結局、それはそうなったんですか?」  この、それ、には事件のことと財布のことの両方を含ませていた。  直接、その単語を出して訊くのは憚られたからそうした。  サラリーマンもそれを理解し、「犯人は捕まったよ。だけど、財布は帰って来なかった。盗った財布は中身だけ抜いて全てゴミ箱に捨てられたそうで、既に回収済みだったそうだよ」と言った。  それを聞くと体の内側から沸き上がってくる憤りを感じた。 「そいつら最低だな。知らなかったとはいえ、そんな大事なもの盗って、しかも捨てるなんて。いや、そもそもおやじ狩りなんて卑怯すぎるだろ」  おやじ狩り集団がそこにいるはずもないのだが、叱責せずにはいられなかった。 「そんなことがあったから、若者って言われるだけで避けてきたんだ。だから、今日はまさか君たちみたいな高校生に助けられるなんて思いもしなかった。大人もいっぱいいたのに追いかけてくれたのは君たちだけだった。何か、そんな様子を見ていると今までのことが申し訳なくてね」  思い出してみると、確かにひったくりを追いかけたのは高屋と佐々木だけだった。  家に帰ろうとしていると、サラリーマンの叫び声が聞こえたので、自転車の方向を180度変えて、駆けつけた時には、佐々木だけがひったくりを追いかけていた。  もちろん、それが佐々木だとはその時には分からなかった。  そして、他の人は振りかえりはするものの、決して追いかけようとはしなかった。
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