一年2

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 教室に入ると、まだ佐々木は到着していないようだった。  その代わり、まだにやけたままの顔を見たクラスメイトが話しかけてきた。 「何かいいことでもあったのか? ずっとにやけっぱなしだけど」 「いや、ちょっとな」  話そうかとも思ったが、それには佐々木の許可が必要なように感じていたのではぐらかせた。  ドアが開く音がした。  そちらを見ると、佐々木は何もなかったように教室に入ってきた。  その様子を見ると、昨日一緒に追いかけたのは本当に佐々木だったのかと疑いたくなる。  だけど、昨日まではどこか周りを見下したような、冷淡なオーラを纏っていたように見えたが、今は全く違って見える。  達観の雰囲気は変わらないが、それは心の中にある溢れんばかりの正義感を押し隠すための鎧のように感じた。  高屋は佐々木と目が合ったが、無視してそのまま自分の席に着こうとしていたので慌てて声をかけに行った。 「よう。昨日は大変だったな」 「まあな」  その言葉に、やはり昨日の人は佐々木だったのだと安堵した。  佐々木が続ける。 「あれからどうなったんだ?」 「あの後、少し話をして、俺もすぐに帰ったよ」 「何だ。朝刊にも載ってなかったから、どうなったのか知りたかったんだけどな。まあ、朝刊に載ってないってことは、警察には届けなかったんだろうな」  佐々木はがっかりしたようでもあったが表情からは読み取れない。
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