一年2

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「そうだな。あの感じだと警察には届けないだろうな」  あのサラリーマンには、もはやひったくりへの怒りは感じられなかった。 「すぐ帰ったんじゃなかったのか? あの時、俺にはそんな風には見えなかったけど」 「だから、少し話をしてから帰ったって言ってるだろ」 「お礼を貰って?」  まさか佐々木がそんな風に茶化してくるとは思いもしなかったので、すぐには答えられなかった。 「お前が受け取らなかったのに俺が受け取れるわけないだろ」 「やっぱりお前はお礼が欲しかったのか」 「いや、まあ欲しくなかったとは言わないけどさ、人に感謝されるのって気分がいいだろ。あの人、俺も帰ろうとしたら何回も、ありがとうって言ってくれたんだ。それだけで十分だったよ。助けて良かったって思えるよな。あ、お前にも伝えといてくれって言ってたぜ」 「お前、いい奴だな。今時、ありがとう、だけで十分なんて言えるって。そんな人ばかりだったら、あんなひったくりもいなくなるのにな」  その口調は、ただ思ったことを述べただけという感じで、最初は褒められているとは気付かなかった。
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