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「お前はやっぱりすごいな。何でそこまで分かるんだよ」
高屋が嬉しそうに笑った。
「このあいだの試合でさ、俺がサインを見逃しちゃったんだよ。いや、でも俺が一方的に悪いんじゃないんだ。一点差で負けてて、一死一、二塁の場面で打席が回ってきたから、これ以上の見せ場はないなと思って、ランナーを返すことしか頭になかったんだけど、実は送りバントのサインが出てたんだ。そんなの気付くはずがないよな」
野球に詳しくない由利にはピンとこなかったが、監督の指示を無視する高屋が一方的に悪いのではないのかと思う。
そして、やっぱり佐々木はすごいと思った。高屋のことは何でも見抜いている。
「それなのに、その説教から逃れようとするお前の図太さがうらやましいよ」
佐々木は皮肉を込めた言い方で言う。
その皮肉の中にも台詞通りの羨望が感じられた。
「だから俺だけが悪いんじゃないんだって。それに今日の説教の原因はそのことだけじゃないんだ。色々積み重なって、最後の一線を越えさせてしまったのが俺の件なだけなんだ」
高屋が弁解した。自分も悪いと分かっているものの、チャンスの場面で打たせなかった監督も悪いという気持ちだろう。
「それは結局、お前に一番責任があるってことだろ。自分で分かってるんじゃないか」
「まあ、そういう考え方もあるけどさ」
高屋が弱々しく言った。
今度も高屋の負けだ。それ以上は言い返せなかった。
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