一年3

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 教室が静まりかえる。  由利は気まずさを感じたが、二人はそうでもなさそうだった。  男同士であれば多少の沈黙があろうとあまり気にしないのだろう。  また、それだけ二人の仲がいいということなのだ。 「なあ、帰りたかったら本当に帰ってもいいよ。結局、説教の原因もこいつにあるみたいだしさ」  佐々木が由利に言った。  大丈夫、気にしないで、と言おうとしたが、高屋がそれよりも先に答えてしまった。 「いや、だから残っててもらわないと困るんだって。何を急に話題を変えてるんだよ」 「でも、退屈だろ」 「ううん。大丈夫、気にしないで」  今度はちゃんと言えた。 「だったら、退屈させないように何かやってあげろよ」  高屋が佐々木に言った。 「文化祭の話し合いはどこにいったんだよ?」 「もうそれはいいだろ。何かやれよ。面白い話とか」 「しかも何で俺なんだよ。お前のために残ってるんだぞ」 「退屈だって言ったのはお前じゃないか。だったら、退屈させないようにするのはお前の役目だろ」  そして、高屋は何かを思い出した顔になり、「あ、そうだ、この前やってた手品、あれやってあげろよ」と言った。 「佐々木君、手品出来るの? 見てみたいなあ」  由利は自然と弾んだ声を出していた。 「いや、あんなの、人前でするものじゃないし」  佐々木は困った顔をしている。  自信がないわけではないが、自慢できるほどのものでもないという思いを感じた。
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