一年3

8/23

61人が本棚に入れています
本棚に追加
/263ページ
「俺の前ではやったじゃないか」 「お前が手品に疎すぎるんだ。どれもくだらないのばかりだっただろ」 「大丈夫だって。あたしも手品、あんまり詳しくないし」  佐々木の顔を覗き込んで様子を窺った。  嫌がっているようではあったが、心の底からという感じではない。  佐々木は渋々、了承したようだった。 「小学生の頃に覚えたやつだから大したものじゃないけど」と前置きして、財布から百円玉を一枚取り出した。  そしてそれを机に置いた。  何をやるのだろうか、とその百円玉をじっくりと見つめてしまう。  普段では、なんてことない金属の円盤だが、こういう状況になると神秘的な輝きを身につける。 「今から俺が後ろを向くから、そのあいだにどっちかの手でこれを握って」  佐々木は百円玉を指差した。 「ただし、一つだけ条件がある。握った後に、握った方の手をこうやって額に当てて目を閉じて、十秒間、こっちの手にあるんだって念じて。そうしたら俺がどっちにあるか当てるよ」  額に手を触れるポーズをして由利に指示を出した。 「これは俺も初めてだ」  高屋が口を挟んだ。 「しつこく聞くから、お前にはいくつか種明かししただろ。横に種が分かっている奴がいながらやるマジックほど間抜けなものはないよ」  当たり前だろ、という感じだった。
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加