一年3

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 由利も同じように苦笑した。  だけど高屋の気持ちも分からなくはない。  仕掛けが分からないからこそ、絶対に無意味だと分かっていても何か出来ることだけでもしたくなるのだ。 「ねえ、どうやったの?」  由利は佐々木の顔を覗き込んで訊いてみた。 「そうだよ。教えろよ。自分だけ分かって優越感に浸ってるなんて何か感じ悪いぞ」  高屋も訊いた、と言うよりはクレームを付けているようだった。  佐々木が考え込んでいる。  手品と言うのは本来そういうものだろう、それが嫌なら手品をやれなんて言うなよ、なんて考えている風で少し嫌そうにした。  だが、そういうようなことは口には出さず、種明かしをしてくれた。  マジシャンは種明かしをしないのがマナーらしいが、佐々木はマジシャンでもなく、そこまでのこだわりも持っていないのか、断ろうと思えば断れたはずだが断ろうとはしなかった。 「手の色が違うんだよ」 「え」  由利と高屋が同時に言った。  二人とも自分の掌、手の甲を何度も交互に確認した。 「今は変わらないよ。さっき、十秒間、握った後に額に手を当ててもらっただろ。心臓より高い位置に手を上げると、血流の関係で手の表面の赤みがなくなるんだ」  そう言って実際にやって見せた。
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