一年3

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 ほとんど会話をしたことがない二人で帰ることになり、教室を出てからしばらく気まずい空気が流れた。  言葉を交わすことなく下駄箱で靴を履きかえる。  外に出ると、まだ紅葉が見られる時期なのに、風が強く寒かった。 「手品とか好きなんだ?」  最初に言葉を発したのは由利だった。さすがにこのまま何の会話もなく帰るのは耐えられない。 「うん。手品ってさ、一見するとわけの分からないことが起きるけど、種さえ知ってしまえば情けないくらいくだらないことだったりするじゃん。俺がさっきやったみたいな。小さい頃にそれに気付いた時、すごい衝撃だったんだよ。もしかしたら世界中で起きてる問題も気付いてみればくだらないことなんじゃないかって思ったりもしたんだ。今思うと、馬鹿みたいな話だけどね」  さらに、自分が手品に興味を持ったきっかけも教えてくれた。  小学生の頃、クラスの学芸会で何かをしなくてはいけなくて選んだのが手品だった。  それから毎年、手品をしていたが、中学生になるとそういう機会がなくなったということだった。 「じゃあ今は滅多にやらないの?」  由利の中では佐々木は友達とわいわい騒ぐよりは、一人でそんなことばかり考えているようなイメージだった。  だからさっき、手品をしてくれると聞いて、とんでもないようなことをしてくれるのではないかという期待を抱いた。
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