一年3

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 何だか昨日の手品の続きを見せられているみたいだった。  あっさりと種明かしをするところも昨日と同じだ。 「ひどいね」  思わず口からこぼれていた。  佐々木は顔を上に向け何かを考えている。  そしてゆっくりと口を開いた。 「ひどいのかな。多分そうなんだろうね。何かさ、俺って自分とあまり関係のない人を一人の人として考えられないんだ」  視線をこちらに戻した。 「上本は偉いな。俺とは違う。周りの人間もちゃんと一人の人として見れてるんだから」  ひどいと言われてもむきになって反論しようともせず自分を見つめ直せる佐々木の方がよっぽど偉いのではないかと思った。  そして彼が心底、自分のことを偉いと言ってくれているのが分かる。  いや、それだけではなく羨望の思いもあるのだろう。  彼自身も自分が見えている世界と他人が見えている世界が違うのに気付いているはずだ。  由利が彼の見えている世界を知りたいと思うのと同じで、彼も由利に対して同じ思いでいるのだろう。  何か言いたかったが、もうそれ以上は話しかけられない雰囲気だった。
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